第五章 システムとバランスNo.038
支配的な戦略
Dominant Strategy別名 支配戦略、一強
概要
どの状況でもほかのどの選択肢と比べて同じ以上に良く、少なくとも一つの状況ではより良い選択肢。ゲームの調整ではほかを選ぶ理由がないほど強い選択肢もこう呼ぶ。支配的な戦略があるとプレイヤーはそれだけを選べばよくなり、選ぶ場面とほかの選択肢が意味を失う。
使われる場面
- 武器や装備を選んで戦うゲーム
- 武器ごとに得意な敵と苦手な敵を作り、敵の種類ごとにいちばん効く武器が変わるようにする。武器と敵の種類ごとの効き目を表にし、どの敵にもいちばん効く武器ができていないかを確かめる。
- 技やスキルを覚えて使い分けるゲーム
- 威力や出の速さ、消費、届く距離を技ごとに比べる。どの点でもほかの技を上回る技は作らない。上回る技があるとほかの技は覚えても使われない。
- 出撃の前に装備を決めるゲーム
- 面に入る前に装備を決めて途中で替えられない作りでは、プレイヤーは出る敵を知らずに選ぶ。敵の出方で平均した効き目がいちばん大きい装備に選択が集まる。面ごとに出る敵を変えるか、入る前に出る敵を見せる。
- 稼ぎ方や進み方を選ぶゲーム
- お金や経験値を稼ぐ方法がいくつかあるとき、どの場面でもいちばん多く稼げる方法があるとプレイヤーはそればかり繰り返す。場面ごとに稼ぎやすい方法が変わるようにする。
判断基準
| こういうとき | こうする |
|---|---|
| 強い武器が一つあってほかの武器が使われない | 状況(敵の種類など)ごとの効き目の表を作り、列ごとにいちばん大きい値に印を付ける。印がその武器の行に集まっていれば支配的な戦略である。その武器が苦手な状況を作り、そこではほかの武器が上回るようにする。 |
| 表ではどの武器にも得意な敵があるのに、一つの武器ばかり使われる | 敵の出方が偏り、多く出る敵に効く武器が事実上の一強になっている。敵の出方を散らすか、多く出る敵に効く武器を 2 つ以上用意する。 |
| 戦う前に装備を決めるゲームで、万能な装備ばかり選ばれる | 状況を見る前に選ぶので、敵の出方で平均した効き目で比べることになる。平均の列でもどれか一つが大きく上回っていないかを見る。入る前に出る敵を見せるか、途中で持ち替えられるようにする。 |
| 強い選択肢を弱くしたら、今度は別の選択肢ばかり選ばれる | 数値を下げた後で表を作り直し、別の行に印が集まっていないかを確かめる。どの行にも印が 1 つ以上あり、1 つの行に集まっていない形を目指す。 |
| 差がわずかなので、放っておいてよいか迷う | どの状況でも上回る選択肢は、差が小さくても結果を比べて選ぶプレイヤーに選ばれるようになる。差の大きさで変わるのは選択が集まる速さなので、わずかな差でも直す。 |
| 明らかに弱い選択肢が混じっていて、知らずに選んだ人だけが損をする | どの状況でもほかのどれかに劣る支配される戦略になっている。その選択肢がいちばん効く状況を 1 つ作るか、選択肢から外す。 |
| どの武器を選んでも結果がほとんど変わらない | 効き目の差が小さすぎる。武器ごとの得意と苦手の差を広げ、状況によって最善がはっきり入れ替わるようにする。 |
遊んでこう感じたら
指示の例
大剣がどの敵にもいちばん効くので、弓と杖を使う理由がない。大剣が支配的な戦略になっているので、速い敵と群れへの大剣の効き目を今の 7 割くらいに下げて弓と杖のほうが効くようにして
群れの敵ばかり出るので、結局いつも杖を使っている。敵の出方の偏りで杖が事実上の一強になっているので、群れの割合を 6 割から 4 割くらいに下げて硬い敵と速い敵を増やして
出撃の前に武器を選ぶので、万能な大剣ばかり持って行く。敵を見る前に選ぶと大剣が支配的な戦略になるので、面の入り口で出る敵の種類を見せてから武器を選べるようにして
技が 5 つあるのに、威力も出の速さも一番の技だけで勝ててしまう。その技が支配的な戦略になっているので、出を今の 1.5 倍くらいに遅くして速さでは別の技が上回るようにして
武器ごとの違いがよくわからない。支配的な戦略がないかを確かめたいので、武器と敵の種類ごとの効き目を表にして敵ごとにいちばん効く武器に印を付けて
詳細
ほかを選ぶ理由がない選択肢
ゲームにはプレイヤーが選択肢から選ぶ場面がある(武器、技、キャラクター、進む道など)。どれが良いかはそのときの状況(戦う敵の種類、相手の選択、残りの体力など)で変わる。どの状況でもほかのどの選択肢と比べて同じ以上に良く、少なくとも一つの状況ではより良い選択肢を支配的な戦略と呼ぶ。ゲーム理論では支配戦略と呼ぶ。支配的な戦略があれば、プレイヤーは状況を見ずにそれを選んでも損をしない。
ゲームの調整では、厳密には支配的でなくてもほかを選ぶ理由がほとんどないほど強い選択肢も支配的な戦略と呼ぶ。例えば、ほかの武器が上回る状況がめったに来ない場合や、上回っても差がわずかな場合である。一つの選択肢だけが強いこの状態を一強とも呼ぶ。
支配的な戦略があると困ること
支配的な戦略があると選ぶ場面で考えることがなくなる。状況を見て選び分けるという遊びが消え、選ぶ画面は毎回同じボタンを押すだけの手順になる。
ほかの選択肢は作っても使われない。見た目や動きや効果を作り込んだ武器も選ばれなければ遊ばれない。
遊び方も一つに固まる。同じ選択肢で勝てるので、敵や面が変わっても戦い方が変わらない。
ほかのどれか一つと比べてどの状況でも同じ以下で、少なくとも一つの状況ではより悪い選択肢を支配される戦略と呼ぶ。選ぶ理由がない点は支配的な戦略と同じだが、困り方が違う。仕組みを知っている人は選ばないので、選ぶのは知らずに選んだ人だけである。支配される戦略は知らない人だけが損をする罠になる。
デモで比べていること
デモには 3 つの武器(大剣、弓、杖)と 3 種類の敵(硬い敵、速い敵、群れ)がいる。武器と敵の組み合わせごとに、その武器でその敵と 1 回戦ったときに与えるダメージの平均を決めてある。これを効き目と呼ぶ。1 回ごとのダメージは効き目の ±15% の範囲で揺れる。
下の段の表ではどの武器にも得意な敵が 1 種類ある。得意な敵への効き目は 60(大剣は硬い敵、弓は速い敵、杖は群れ)で、ほかの敵には 30 か 40 である。上の段の表は大剣だけをどの敵にも 70 にしたもので、弓と杖は下の段と同じである。
どちらの段でも同じ規則で武器を選ぶプレイヤーのモデル 300 人が 60 戦ずつ戦う。
- 選び方:戦う前に敵の種類を見て、その敵とこれまでに戦ったときに与えたダメージの平均がいちばん大きい武器を選ぶ。まだ使っていない武器があれば先に使う。
- 試し:20 回に 1 回(5%)は平均がいちばん大きい武器の代わりにほかの 2 つのどちらかを試す。
- 乱数:出る敵、試すかどうか、ダメージの揺れはシード付きの乱数で決める。2 つの段で同じ列を使うので、同じ人の同じ戦いにはどちらの段でも同じ敵が出る。
選ばれた割合はこのモデルで数えた値であり、実際のプレイヤーの選び方を測ったものではない。以下の割合はグラフと同じく、300 人がその戦いまでの直近 5 戦で選んだ武器から数えている。操作パネルの設定を変えた場合も同じモデルで数えた。
表で見つける
支配的な戦略は状況ごとの効き目の表で見つける。行を選択肢、列を状況にして、列ごとにいちばん大きい値に印を付ける。一つの行に全部の印が集まっていれば、その行が支配的な戦略である。デモの表ではこの印を白い枠で示している。上の段では枠が大剣の行に並び、下の段では枠が斜めに並ぶ。
上の段のモデルは戦うたびに大剣のほうが効くことを覚えていく。大剣を選ぶ割合は 16 戦目に 8 割、23 戦目に 9 割を超え、60 戦目には 94% になる。残りのほとんどは試しでほかの武器を選んだ分である。
下の段のモデルは敵を見て武器を替える。3 種類の敵は同じ割合で出るので、3 つの武器が選ばれる割合は 60 戦目でも 32〜34% に分かれたままである。表のマスも、敵ごとにその敵に効く武器のマスだけが濃くなる。
差の大きさと広まる速さ
操作パネルで上の段の大剣の効き目を変えると、枠の付き方が変わる。
- 60 より大きい:どの敵にもほかの武器より効く。
- 60:速い敵と群れで弓と杖と同じ値になる。大剣はどの敵にも同じ以上に効くので、定義のうえでは支配的な戦略である。同じ値の列ではモデルの選び方が分かれ、60 戦目に大剣を選ぶ割合は 66% になる。
- 40 より大きく 60 より小さい:大剣がいちばん効くのは硬い敵だけになる。効き目が 50 なら、大剣を選ぶ割合は 60 戦目でも 35% で下の段の 34% とほとんど変わらない。
差が小さくても、どの敵にも上回っていれば選択は大剣に集まっていく。効き目を 65 にすると、速い敵と群れでのほかとの差は 5 しかない。それでも大剣を選ぶ割合は 20 戦目に 8 割を超え、60 戦目には 88% になる。70 のとき(16 戦目に 8 割、60 戦目に 94%)と比べると、差が小さいほど集まるのが遅い。ただし、集まる先は変わらない。同じモデルで 200 戦まで続けると、65 でも大剣を選ぶ割合は 93% になって 70 の 96% に近づく。
モデルは自分で戦った結果だけから覚える。効き目を数値で画面に出すゲームなら、プレイヤーは戦う前に表を見て比べられる。わずかな差でもすぐに見つかる。差の大きさを理由に支配的な戦略を放っておくわけにはいかない。
敵の出方で生まれる一強
表では敵ごとに最善が変わっていても、敵の出方が偏ると多く出る敵に効く武器ばかりが使われる。操作パネルで群れを 6 割にすると、下の段で杖を選ぶ割合は 60 戦目に 56% になる。8 割では 75% になる。表の上ではどの武器にも出番があるが、遊んでいる時間の大半は杖を持っている。プレイヤーから見れば、強い武器が一つあってほかを使う場面が少ないのと変わらない。
この場合は表の数値ではなく状況の出方を直す。群れ以外の敵を増やすか、群れに効く武器をもう 1 つ用意する。
敵を見る前に選ぶとき
状況を見てから選べるかどうかでも支配的な戦略は変わる。出撃の前に武器を決めて途中で持ち替えられないゲームでは、プレイヤーはどの敵が出るかを知らずに選ぶ。比べるのは敵ごとの効き目ではなく、敵の出方で重みを付けた効き目の平均になる。デモの表の右端の列がこの平均である。操作パネルで「敵を見る前に」を選ぶと、モデルは敵を区別せずに武器ごとの平均で比べる。表では平均の列にも枠が付く。
敵が均等に出るなら、下の段の平均はどの武器も (60 + 30 + 40) ÷ 3 = 43.3 で同じである。平均が同じなので、モデルがどの武器を選ぶかはそれまでのダメージの揺れで決まる。60 戦目の割合は 29〜40% に散る。群れが 6 割になると杖の平均は 0.2 × 30 + 0.2 × 40 + 0.6 × 60 = 50 になり、大剣の 42 と弓の 38 を上回る。モデルは群れ以外の敵が出る戦いにも杖を持って行き、杖を選ぶ割合は 60 戦目に 76% になる。敵を見てから選ぶときの 56% より偏る。
上の段の大剣をどの敵にも 50 にしたとき、敵を見てから選ぶなら大剣がいちばん効くのは硬い敵だけである。60 戦目に選ばれる割合は 35% にとどまる。敵を見る前に選ぶと、大剣の平均 50 が弓と杖の 43.3 を上回る。大剣を選ぶ割合は 93% になる。速い敵と群れでは弓や杖に劣る万能な武器が、敵を見る前に選ぶときには支配的な戦略になる。
直すには選ぶ前に状況を見せるか、途中で持ち替えられるようにする。面の入り口で出る敵の種類を見せることや、戦いの途中でも武器を替えられるようにすることである。どちらも比べるものを平均から敵ごとの効き目に戻す。
直し方
支配的な戦略を直すにはほかの選択肢を選ぶ理由を作る。作り方は次のように分かれる。
- 弱い状況を作る:支配的な選択肢にもほかの選択肢が上回る状況を作る。デモの上の段なら、速い敵と群れへの大剣の効き目を 60 より下げる。
- 代償を付ける:強い選択肢ほど失敗する確率や使うための費用を大きくする。報酬と危険を見込みで釣り合わせる考え方は「リスクとリターン」で扱う。
- 相性を作る:相手の選択によって最善が入れ替わる関係にする。3 つの選択肢が互いに勝ち負けを持つ形は「三すくみ」で扱う。
- 状況の出方を散らす:どの選択肢の得意な状況も同じくらいの頻度で来るようにする。
- 役割を変える:同じ物差しの数値の大小ではなく、できることを変える。ほかでは代わりにならない働き(遠くから攻撃する、複数の敵に当てる、敵の動きを止めるなど)を持たせる。
数値を一つ下げるだけでは、次に強い選択肢の行に印が集まることがある。下げすぎてその選択肢が支配される戦略に変わることもある。直したら表を作り直す。どの行にも印が 1 つ以上あり、1 つの行に集まっていないかを確かめる。
選ばれた割合を数える
表を作りにくい選択肢もある。腕で結果が変わる技や組み合わせの多い装備などである。こうした選択肢は遊んだ記録から探す。選択肢ごとに選ばれた割合と選んだときの結果(勝率、倒すまでの時間など)を、状況ごとに数える。ある選択肢の割合がどの状況でも高く結果もどの状況でもほかより良ければ、支配的な戦略になっている。割合だけが高く結果がほかと変わらないなら、強さ以外の理由(見た目、使いやすさ、最初に手に入るかどうか)で選ばれている可能性がある。
AI にゲームを作らせたら、選択肢と状況の組み合わせごとの効き目を表にして出させる。列ごとの最大に印を付けさせれば、一つの行に集まっていないかを一目で確かめられる。
差がなさすぎるとき
反対に、どの選択肢もどの状況でも効き目が近い場合がある。選ぶ理由がないのは支配的な戦略と同じだが、起きることが違う。何を選んでも結果が変わらないので、プレイヤーは違いを感じられない。表に印は付くが、印の付いた値とほかの値の差が遊んでいてわからないほど小さい。この場合は得意と苦手の差を広げ、状況によって最善がはっきり入れ替わるようにする。
ほかの用語との関係
「リスクとリターン」のデモの上の段は危ない道の報酬が多すぎて、どの分かれ道でも危ない道の見込みが安全な道を上回る。危ない道が支配的な戦略になっている例である。
「三すくみ」は相手の選択との相性で最善を入れ替える作りを扱う。この項目のデモは相手ではなく状況(敵の種類)によって最善が変わるかどうかを見ている。どちらもどの選択肢にも選ぶ理由がある状態を目指す。
「コアループ」で繰り返す行動の中に支配的な戦略があると、輪を何周回しても同じ選び方を繰り返すことになる。
「難易度曲線」に沿って新しい種類の敵を足すときは、敵の出方が変わる。足した後で効き目の表と出方を見直し、新しい敵に効く武器が一つに決まりすぎていないかを確かめる。