第五章 システムとバランスNo.032
リスクとリターン
Risk and Reward別名 リスクリターン、ハイリスクハイリターン
概要
選択肢ごとの危険の大きさ(失敗する確率と、失敗したときの痛手)と、成功したときに得る報酬の釣り合い。危ない道の報酬を危険に見合う量にすると、見えている危険の大きさやプレイヤーの慎重さで選ぶ道が分かれ、分かれ道で考えることが生まれる。報酬が少なすぎると危ない道に挑む理由がなくなり、多すぎると安全な道が要らなくなる。
使われる場面
- 敵や罠の多い近道
- 近道には敵や罠を多く置き、通り抜ければ時間が縮むか、多くの宝が手に入るようにする。遠回りの道は安全にしておき、どちらを通るかを見えている危険の大きさと残りの体力で選ばせる。
- 倒さなくても進める強い敵
- 避けて先へ進めるが、倒せば多くの経験値や道具が手に入る強い敵を置く。負けたときの痛手(減る体力、やり直す道のり)と、倒したときの報酬を釣り合わせ、挑むかどうかを選ばせる。
- 続けるかやめるかを選ぶ賭け
- 続けるほど報酬が増えるが、失敗するとそれまでに集めた分を失う仕組みである。ここでやめて持ち帰るか、もう一度挑むかを選ばせる。続けたときの見込みがやめたときに持ち帰る報酬と近くなるように、報酬の増え方と失敗する確率を決める。
- 当たれば大きいが、外すと隙のできる技
- 威力の大きい技ほど出るまでの構えを長くするか、外したときの隙を大きくする。当てたときの威力と、外したときに受ける反撃の大きさを釣り合わせ、弱いが隙の小さい技と使い分けさせる。
判断基準
| こういうとき | こうする |
|---|---|
| 危ない道を誰も通らない | 危ない道の見込み(成功する確率×報酬−失敗する確率×痛手)を求め、安全な道の報酬と比べる。見込みが小さければ、報酬を増やすか痛手を減らし、危険が最も小さい場面で危ない道の見込みが安全な道を上回るようにする。 |
| いつも危ない道を選ぶほうが得で、安全な道を誰も通らない | 危険が最も大きい場面でも危ない道の見込みが上回っている。報酬を減らすか痛手を増やして、危険が大きい場面では安全な道のほうが見込みが大きくなるようにする。 |
| どちらの道を選んでも結果がほとんど変わらない | 危ない道の成功と失敗の差が小さすぎる。成功したときの報酬と失敗したときの痛手をどちらも増やし、差を遊んでいて違いがわかる大きさにする。増やす量は見込みが安全な道と近いままになるように決める。 |
| 危ない道で失敗しても運が悪かったとしか感じない | 挑む前に危険の大きさを見せる。敵の数、足場の幅、落ちたときに戻る場所などを分かれ道から見える所に置き、数値で見せるゲームなら失敗する確率を出す。場面ごとに危険の大きさを変え、見て選んだほうが得をするようにする。 |
| 危ない道で一度失敗すると、それまでに遊んだ分がほとんど無駄になる | 痛手が報酬に比べて大きすぎる。失う物を集めた物の一部にする、危ない道の入り口にチェックポイントを置くなどで痛手を小さくしてから、報酬と釣り合わせる。 |
| 失敗してもすぐ前から挑み直せて、危ない道で失う物がほとんどない | 痛手がないので、危ない道がいつも得になっている。チェックポイントを危ない道から離すか、やられたら集めた物の一部を失うようにして、痛手を作る。 |
| 序盤では釣り合っていた危ない道が、上手になるといつも得になる | 腕で成否が決まる挑戦では、上達すると失敗する確率が下がり、見込みが上がる。後半の危ない道ほど危険を大きくし、難しさの上がり方に合わせて報酬との釣り合いを見直す。 |
遊んでこう感じたら
指示の例
敵の多い近道を通っても遠回りと同じくらいのコインしか手に入らず、危ない道に挑む理由がない。リスクとリターンを見直して、近道のコインを今の 2 倍くらいに増やして
いつも危ない道を選ぶほうが得で、安全な道を通る意味がない。危ない道の報酬を 3 割くらい減らして、罠のいちばん多い道では安全な道のほうが得になるようにして
危ない道でやられても運が悪かったとしか思えない。分かれ道に着いた時点でそれぞれの道の敵の数と足場の幅が見えるようにして、危険の大きさを見て選べるようにして
危ない道で一度やられると面の最初まで戻されるので、痛手が大きすぎて挑む気にならない。危ない道の入り口にチェックポイントを置いて、失敗の痛手をその道を通り直す分だけにして
どちらの道を選んでも、もらえるコインがほとんど変わらない。危ない道は成功したときのコインを増やし、失敗したときはコインを失うようにして、成功と失敗の差を今の 3 倍くらいに広げて
詳細
危ない道と安全な道
ゲームには、安全だが得る物の少ない選択と、失敗すると痛手を受けるが成功すれば多くを得る選択を並べる場面がある。敵の多い近道と安全な遠回り、避けても先へ進める強い敵、ここでやめるか続けるかの賭けなどである。こうした選択肢ごとの危険の大きさと、得られる報酬の大きさの関係をリスクとリターンと呼ぶ。危険の大きさは、失敗する確率と失敗したときに受ける痛手の大きさの二つで決まる。以下ではデモに合わせて、危険のある選択肢を危ない道、危険のない選択肢を安全な道と呼ぶ。
危ない道に挑む理由になるのは、危険に見合う報酬である。報酬が危険に見合わなければ、危ない道は置いてあるだけで通る理由がない。反対に、報酬が危険を大きく上回れば、安全な道を通る理由がなくなる。どちらの場合も、分かれ道に着いても考えることがなく、道を選ぶという遊びが消える。
見込みの比べ方
危険と報酬が見合っているかは、選択肢ごとの見込みで比べる。ここでいう見込みは、同じ選択を何度も繰り返したときに 1 回あたり平均して得る量である。確率の言葉では期待値と呼ぶ。失敗する確率を p、成功したときの報酬を R、失敗したときの痛手を D とすると、危ない道の見込みは次の式で求まる。
危ない道の見込み = (1 - p) × R - p × D
これを安全な道で必ず得る報酬と比べる。見込みが安全な道の報酬より大きければ、何度も選ぶほど危ない道のほうが多くを得る。
デモの下の段では、安全な道は必ず 2 点を得る。危ない道は成功すれば 5 点を得て、失敗すれば 2 点を失う。失敗する確率が 40% の分かれ道では、危ない道の見込みは 0.6 × 5 − 0.4 × 2 = 2.2 点で、安全な道の 2 点を少し上回る。同じ式で 20% の分かれ道では 3.6 点、60% の分かれ道では 0.8 点になる。報酬と痛手が同じでも、失敗する確率によって見込みの大きい道が入れ替わる。
デモの自動再生で遊んでいるもの
デモの面には分かれ道が 8 つあり、分かれ道ごとに安全な道か危ない道のどちらかを通る。上の段と下の段の違いは危ない道で成功したときに得る点数だけで、上の段は 9 点、下の段は操作パネルで決めた点数(既定は 5 点)である。危ない道で失敗する確率は分かれ道ごとに違う。操作パネルで決めた平均(既定は 40%)の半分、そのまま、1.5 倍の 3 通りがあり、どれになるかは等しい確率で決まる。確率はそれぞれの危ない道に書いて見せている。
自動再生では、同じ規則で道を選ぶプレイヤーのモデルに段ごとに遊ばせている。
- 選び方:分かれ道に書いた確率から危ない道の見込みを求め、安全な道の 2 点より大きければ危ない道を、そうでなければ安全な道を選ぶ。
- 慎重さ:見込みを求めるとき、失敗の痛手に操作パネルで決めた慎重さの倍率を掛ける。既定は 1 倍で、式どおりの見込みで選ぶ。
- 乱数:分かれ道ごとの失敗する確率と危ない道の成否は、シード付きの乱数で決める。2 つの段で同じ列を使うので、同じ分かれ道で危ない道を選べば、成否はどちらの段でも同じになる。
2 つの段の点数の差はこのモデルで比べた差であり、実際のプレイヤーの選び方を測ったものではない。以下の数値は操作パネルが既定のときのものである。300 回の数値は下のグラフと同じ試行から数えている。
報酬が多すぎるときと少なすぎるとき
上の段では失敗する確率が 60% の分かれ道でも、危ない道の見込みは 0.4 × 9 − 0.6 × 2 = 2.4 点で、安全な道の 2 点を上回る。どの分かれ道でも危ない道のほうが見込みが大きいので、モデルは安全な道を一度も選ばない。自動再生の 1 回目には 60% の分かれ道が 4 つあり、上の段はそのすべてで危ない道を選んで、2 回失敗している。下の段はその 4 つで安全な道を選んでいる。
状況によらずほかの選択肢よりいつも得になる選び方があると、プレイヤーはそれだけを選べばよい。このような選び方を「支配的な戦略」と呼ぶ。上の段の安全な道は置いてあるだけの道になっている。上の段の合計は平均 37.5 点で下の段より多い。しかし、これは報酬そのものが大きいからで、分かれ道で考えた結果ではない。下の段の報酬を 9 点以上にすると、下の段でも安全な道が選ばれなくなる。
反対に、下の段の報酬を 3 点まで下げると、失敗する確率が 20% の分かれ道でも見込みは 0.8 × 3 − 0.2 × 2 = 2.0 点で安全な道と同じになる。モデルは危ない道を一度も選ばず、今度は危ない道が置いてあるだけの道になる。下の段の報酬が 4〜8 点のあいだでは、失敗する確率によって選ぶ道が変わる。
危険の大きさで選ぶ道が変わる
下の段のモデルは失敗する確率が 20% と 40% の分かれ道で危ない道を選び、60% の分かれ道では安全な道を選ぶ。どちらの道が得かが分かれ道ごとに見える危険の大きさで入れ替わるので、分かれ道に着くたびに選ぶ理由がある。300 回で危ない道を選んだ割合は 66% である。
合計の点数の見込みも同じ式から求まる。3 通りの確率は等しい確率で出るので、1 つの分かれ道あたりの見込みは (3.6 + 2.2 + 2) ÷ 3 = 2.6 点で、8 つの分かれ道では 20.8 点になる。300 回の平均は 21.3 点だった。安全な道だけを通れば、毎回 16 点である。
危ない道の結果のばらつき
見込みが同じくらいでも、危ない道の結果はばらつく。下の段の設定でどの分かれ道でも危ない道を選ぶと、1 つの分かれ道あたりの見込みは (3.6 + 2.2 + 0.8) ÷ 3 = 2.2 点で、安全な道の 2 点に近い。300 回の平均も 18.1 点で、安全な道だけの 16 点に近い。それでも、300 回のうち 116 回は 16 点を下回り、10 回は合計が負になる。見込みが安全な道と同じくらいのとき、危ない道を選んで引き受ける危険は平均が下がることではなく、合計の少ない回が出ることである。
危険を見て選ぶ下の段のモデルでも、300 回のうち 54 回は 16 点を下回る。自動再生の 2 回目では、下の段は選んだ 4 つの危ない道のうち 2 つで失敗し、14 点で終わっている。上の段はどの分かれ道でも危ない道を選ぶので、合計のばらつきがさらに大きい。グラフの上の段の棒は下の段より広い範囲に散っている。自動再生の 3 回目では、上の段は 60% の分かれ道 5 つのすべてで失敗し、6 点で終わる。
反対に、危ない道の成功と失敗の差が小さいと、どちらの道を選んでも結果はほとんど変わらない。例えば、安全な道では必ずコインを 10 枚、危ない道では成功すれば 11 枚、失敗すれば 9 枚得るとする。どちらを選んでも 1 回ごとの差は 1 枚しかなく、選ぶ意味がない。選ぶ意味を持たせるには、成功と失敗の差を遊んでいて違いがわかる大きさにする。見込みを安全な道と近いままにして差を広げるには、成功の報酬と失敗の痛手を両方増やす。見込みの式の中で、報酬の増えた分と痛手の増えた分が打ち消し合うようにする。失敗する確率が 40% なら 0.6 × 2 = 0.4 × 3 なので、報酬を 2 点増やすごとに痛手を 3 点増やせば見込みは変わらない。
危ない道の報酬は得られる回と得られない回があるので、報酬を得る間隔もばらつく。報酬を一定の間隔で出すか、ばらつかせるかの違いは「報酬の間隔」で扱う。
慎重さで分かれる選び方
失敗する確率が 40% の分かれ道では、危ない道の見込み 2.2 点と安全な道の 2 点が近い。見込みの差が 0.2 点しかないので、どちらを選んでも損は小さい。こうした分かれ道では、結果のばらつきを避けたいかどうかで選ぶ道が分かれてよい。
行動経済学では、同じ大きさの得と損を比べると損のほうを重く感じる傾向を損失回避と呼ぶ。デモの慎重さは、この傾向の強さを失敗の痛手に掛ける倍率で表したものである。慎重さを 1.5 倍にすると、モデルは 40% の分かれ道の見込みを 0.6 × 5 − 1.5 × 0.4 × 2 = 1.8 点と見積もり、安全な道を選ぶ。危ない道を選ぶ割合は 33% に下がり、合計の平均は 21.3 点から 20.5 点に下がる。一方で、合計のいちばん少ない回は −5 点から 4 点に上がり、いちばん多い回は 37 点から 34 点に下がる。合計の散らばる範囲が狭まる。
見込みを安全な道と近くしておけば、慎重なプレイヤーが安全な道を選んでも、危険を好むプレイヤーが危ない道を選んでも見込みの差は小さい。どちらも大きくは損をしない。そのため、それぞれの好みで選べる。
危険の大きさを見せる
下の段のモデルが分かれ道ごとに選ぶ道を変えられるのは、失敗する確率が道に書いてあるからである。危険の大きさが見えず、どの分かれ道も平均の 40% に見えていたら、モデルはどの分かれ道でも見込み 2.2 点の危ない道を選ぶ。これは結果のばらつきの節で見た、どの分かれ道でも危ない道を選ぶ場合と同じである。合計の平均は 21.3 点から 18.1 点に下がり、16 点を下回る回は 300 回のうち 54 回から 116 回に増える。60% の分かれ道を見分けられず、そこでも危ない道に挑むからである。
危険の大きさが見えないと、結果の良し悪しは見て選んだ判断ではなく成否の運だけで決まる。失敗しても、どの道を避ければよかったのかを知る手がかりがない。危険の大きさは挑む前に見えるようにする。敵の数、足場の幅、落ちたときに戻る場所などを分かれ道から見える所に置く。数値で見せるゲームなら、成功する確率を表示する。そのうえで、場面ごとに危険の大きさを変えておくと、見て選ぶことに意味が生まれる。
痛手の種類
失敗したときの痛手は点数を失うことだけではない。
- 体力:失敗すると体力が減る。残りの体力が少ないほど、同じ量の痛手でも次の失敗でやられる危険が大きい。
- 時間:失敗すると遠回りになる、敵を振り切るまで待たされるなどで時間を失う。
- やり直しの長さ:やられると戻る場所まで戻され、そこから通り直す。
- 集めた物:失敗すると、持っているコインや道具の一部を失う。集めた物が多いほど、失う量も多い。
痛手と報酬の種類が違うときは、見込みの式を使う前に痛手を報酬と同じ物差しに置き換える。例えば、やり直しに 30 秒かかるとする。その 30 秒で安全な道を進めばコインを 10 枚集められるなら、失敗の痛手はコイン 10 枚分とみなせる。体力と集めた物の痛手はその時点で持っている量で重さが変わるので、同じ危ない道でも遊んでいる状況で見込みが変わる。
痛手の大きさとチェックポイント
やられたら途中の地点から再開する面では、危ない道の痛手は戻る場所から危ない道までを通り直す時間になる。危ない道の入り口に「チェックポイント」があれば、痛手は危ない道の中で失った時間だけで済む。面の最初まで戻るなら、それまでの道のりのすべてを通り直すことが痛手になる。同じ危ない道でもチェックポイントの位置で痛手の大きさが変わり、見込みも変わる。
危ない道を置くときは、報酬と一緒に、失敗したらどこへ戻るかを決める。痛手が大きすぎて誰も挑まないなら、報酬を増やす前に危ない道の近くにチェックポイントを置けないかを考える。反対に、失敗してもすぐ前から挑み直せて失う物がほとんどないなら、痛手がないので危ない道はいつも得になる。この場合はチェックポイントを危ない道から離すか、やられたら集めた物の一部を失うようにして、痛手を作る。
上達で変わる釣り合い
デモでは失敗する確率が決まっているが、操作の腕で成否が決まる挑戦では、失敗する確率はプレイヤーの腕で変わる。上達すると失敗する確率が下がり、危ない道の見込みが上がる。デモの失敗する確率の平均を 40% から 20% に下げると、下の段のモデルはどの分かれ道でも危ない道を選ぶようになる。序盤で釣り合っていた危ない道も、上達したプレイヤーにはいつも得な道になる。後半の危ない道ほど危険を大きくし、「難易度曲線」に合わせて危険と報酬の釣り合いも見直す。